イエスタデイをうたって
2020年4月4日深夜より、テレビ朝日の深夜アニメ枠「NUMAumation」で放送された『イエスタデイをうたって』という作品。
原作は1998年から2015年まで「ビジネスジャンプ」「グランドジャンプ」に連載されていた、冬目景先生の描いた漫画となっている。
私は漫画は好きであるが、いかんせん連載開始と産まれたのが1年も違わないくらいに前の作品であったので、当初は名前すら知らなかった。しかし、たまたま深夜番組でアニメの紹介を観た際に「これは…観ねば…!」と直感が働き、ブログに想いをぶつけるほどにはまってしまった。
去る6月20日深夜に最終回を迎えたわけだが、いやあ…本当にいい話だった…。普段はほとんどアニメを観ることはなかったのだが、思っていた以上に登場人物に感情移入してしまった。監督が原作のファンだということもあってか、全編においてとても丁寧に作られているのが伝わってくる作品だった。
感想だけでは面白くないので、簡単にあらすじだけ紹介したい。
「愛とはなんぞや?」
新宿にほど近い私鉄沿線の小さな街で、
悩み、迷いながらも懸命に生きる
4人の男女の姿を描いた、
人生と愛のストーリー。
ほんの少しの誤解がすれ違いを生み、
それぞれの想いが錯綜する。
49%うしろ向き、
51%まえ向きに生きる、
日常のものがたり。
(TVアニメ『イエスタデイをうたって』公式サイトより抜粋)
やりたい事を見出せず、大学卒業後もアルバイト生活を続ける「魚住陸生」、ささやかなきっかけから陸生に一目惚れした、カラスを連れた不思議な少女「野中晴」、過去に好きな人を病で亡くし、恋愛に前向きになれない陸生の同級生「森ノ目榀子」、病で亡くなった彼の弟で、幼い頃から榀子を見てきた高校生「早川浪」の4人を中心に、日常生活の中で揺れ動く恋愛模様を描いた作品である。榀子に対してなかなか友達以上の関係に踏み込めない陸生、榀子の影を感じつつも陸生にアタックする晴、榀子に亡き兄だけでなく自身のことも見てほしい浪、陸生や浪の想いに上手く応えられない榀子…。
この4人の思いが錯綜するさまを観て、私は毎話放送後すぐには眠ることが出来なかった。
素晴らしい作品であったが、観る人を選ぶものではあったと思う。それこそ自分を強くもち、意思のしっかりした人から観たら、登場人物たちはまどろっこしくて仕方がないのかもしれない。しかし、どこか完全には前を向ききれないまま生きてきた私は、同じく前を向ききれない彼らにすぐ感情移入をしてしまったし、Twitterなどの反響を見る限り、そう感じたのは私だけではなかったようだ。
「前向きになれない」と言いつつも、その度合いも4人で違っている。とてもざっくりだが、ウジウジしがちな陸生と榀子、悩みながらもまっすぐにアタックする晴と浪の2組に分けられる。
若手組、特に晴はひたむきに陸生にアタックしながらもなかなか報われず、それでも陸生が大好きでめげない一途な姿に魅了される人が多かったようだ。海外の視聴者からも #TeamHaru というタグで応援されるほど人気であったらしい。
浪も若さゆえの荒削りなところがありながらも、榀子を振り向かせようとまっすぐな姿はとてもかっこよかった。私は途中まですごく苦手な人物であったのだが…。
だが、私は特に感情移入してしまったのは、この物語の主人公である魚住陸生だ。
年齢が近い人物であること、自分自身に強く自信を持てないこと、そして、不器用で、優柔不断で、無意識に人を傷つけながらも榀子に想いを寄せる姿が、どうしても他人事には見られなかったのだ。
初めは何をするにも逃げ腰で、その場しのぎで生きているような様子だったが、晴と出会い、榀子と再会し、環境が少しずつ変化していくなかで、彼自身もゆっくりだが着実に変わっていくのである。もちろん、その馬鹿正直さや余裕のなさゆえに何度となく晴を傷つけたのは許されたものではないと思うが、私はこの物語で一番成長を感じることができた人物だった。
特に最終回で、付き合ってはいながらもどこかぎこちなさのあった榀子との関係に結論を導き出したのは、当初の陸生からは想像できないほど強く、本当に、本当に立派だと感じた。
榀子についても、なかなか前に進もうとしない彼女の様子に放送中は(というより原作でも?)嫌われがちな人物であったが、私は嫌いになることが出来なかった。好きだった人が亡くなるという経験だけでなく、真面目ゆえの恋愛に対する不器用なところを見てしまうと、どうしても榀子のことを悪く思えなかったのだ。彼女の感情を捉えるのはとても難しく、周りのことを考えている様で考えられていないこともちらほらあったが、それでもどこか魅力を感じる人物だった。
物語を観ている途中からは「仮に陸生と榀子が付き合ったとして、その恋愛が上手くいくのだろうか?」とひとりで考えてしまっていた。ただ考えているだけではなく、付き合いだした時点でふたりのその先がなんとなく想像できていた。最終回の公園でのシーンは、序盤から結末が分かっていた。観ているのが辛かった。
それでも、結末が分かっていても、このふたりで幸せになってほしいと願っている自分がいた。
それだけ私にとって、魚住陸生、森ノ目榀子という人物は魅力的な人だった。
これだけ思い入れが強くなったのは簡単な話で、私も彼らと同じような恋愛経験をしたことがあったからだ。
もちろん、私は陸生ほど将来のことに思い詰めていなかったし、相手も昔の恋人を亡くしているわけではなかった。ただ、付き合っていてもなかなか距離を詰められなかったり、お互いのことを考えきれなかったり、変なところに気を遣いすぎてしまったり…。自分たちとは違うと分かっていても、どうしても陸生や榀子に重ねて考えてしまっていた。
奇しくも放送開始を前に相手とは別れていたので、なおさら想いが高ぶってしまっていた。
よりを戻したいと思ったわけではないのだが、どうすれば上手くいったのか、前向きでない者同士の恋愛はどうすれば良かったのか、このふたりに答えを求めていたのかもしれない。
だからこそ、結末が分かっていても、陸生と榀子が結ばれてほしいと思ってしまった。最後に彼らなりの結論を出したとき、やはりこれが答えなのか…とどこかやりきれない気持ちになってしまった。
ただ、後ろばかり振り返っていても良くないというのも分かっている。自分自身を見直し、前を向き始めることで出会える考えや価値観もあるのだと思う。陸生がそうしたように、私ももっと成長していかなければならないのかもしれない。
このアニメの魅力は、観ている人の年代、性別、経験によって捉え方が変わってくるということも挙げられるだろう。最初に観た時に感じたことと、数年後に観た時のものが同じとも限らないのだろう。
DVDを予約した。原作も買い揃えるつもりだ。
ここまでハマったのは初めてだが、素晴らしい作品なので手元に残しておきたいという気持ちが大きかった。それだけでなく、数年経って作品をふたたび観た時に、自分の中で変化があることへの願いでもある。
昨日を笑って唄えていると信じて。
TVアニメ「イエスタデイをうたって」公式サイト